科学雑話


ラプラスの悪魔

物理は『全てを知る』ことができるか?

物事は一定の物理法則により支配され、それに例外はない。地球上では、物は常に下に向かって重力を受け、突然上に引っ張られたりはしない。月は地球の周りを一定速度で回っており、いきなり止まったり、逆回転を始めたりすることはない。我々は、月が何時どこにあるか予測できる。月の位置に限って言えば未来が予測できるわけである。

しかし、明日の天気は正確には予測できない。これは、あまりに多くの因果関係が存在するため、全てを考慮することができないからである。それではもし、この世のあらゆる事象の因果関係を知ることができたとしたら・・・

もちろん、我々にそれは不可能である。未だ物理法則全てを解明できず明日の天気すら予測できない我々に、宇宙の果ての状態など知る由もない。だからこれは仮定の話である。あらゆる物理法則と現在の状態を全てを知り尽くし、故に未来の状態全てを予測できる存在、これをラプラスの悪魔という。

さて、人間の科学が発達したとき、人はラプラスの悪魔に近づくことができるだろうか? 現代物理では残念ながらNOである。理由をいくつか挙げてみよう。

  1. 現在の状態を完璧に知ることは不可能である
  2. 現在の状態を完璧に知ることができたとしても、その時間発展の方程式を解くことができない
  3. 初期値のわずかな違いが時間と共に無限大に発散する

3のことを カオス といいます。これにより、近似的に解くことが無駄になります。つまり、ラプラスの悪魔になれないというだけでなく、近づくこともできないわけです。これをもって、「カオスがラプラスの悪魔を殺した」という人がいますが、間違いです。本当に死ぬのは次です。

  1. 量子力学では、物質の位置を確定することができない

1~3での主張は「人間はラプラスの悪魔にはなれない」ということ。別にラプラスの悪魔が死ぬわけではありません。ですが、4は違います。

月は今、どの位置にありますか?」と聞いたとしましょう。答えは「『月の位置』なんてありません」となります。これは人間が知ることができないという意味ではありません。「状態が存在しない」ため、知ることができたら、という仮定を立てることすらできないのです。