科学雑話


生命が生き残るためにとった戦略

生命はどのような戦略で、どのように進化してきたのか。この文章は「NHKスペシャル 生命40億年はるかな旅」及びその参考文献である「囚人のジレンマ(著:ウィリアム・パウンドストーン)」を、オリジナル解釈も混ぜつつレビューした内容になっています。

囚人のジレンマ・疑惑編

突然ですが、じゃんけんです。でもただのじゃんけんではないです。チョキは出せません。グーとパーのみで勝負です。そしてもうひとつ、ルールを加えます。勝ち負けを決めるのではなく、それぞれの組み合わせに対して点数をつけます。パー同士なら、お互いに1点。グー同士なら、お互いに3点。グーとパーなら、グーに0点パーに5点としましょう。

グーパー
グー3\30\5
パー5\01\1

この特殊じゃんけんは一般に囚人のジレンマと言われています。さて、今から100回やったとして「1点でも高い点を取る」ためにはどのように出すのがいいでしょうか。相手に勝つことが目的ではありません。あくまで自分自身が高い得点を出すことが目的です

考察1

まず着目したいのは、相手がグーを出そうとパーを出そうと、自分はパーを出したほうが点数が高いことである。従って、まず考えられるのは「すべてパー」ですね。これが妥当な解答だと思われます

考察2

しかし・・・相手も当然、同じように考えるでしょう。そうすると、「パー同士」がずっと続くことになります。ここでちょっと待ってほしい。「パー同士」の点数はお互い1点。一方で「グー同士」の点数はお互い3点!

…なんか損してないかい?

もしも「相手と打ち合わせて」お互いグーを出すことができたとしたら・・・パーを出し続けるより遥かに点数が高くなる!

考察3

しかし・・・と、さらに待ったがかかる。仮に打ち合わせたとして、相手が裏切ってパーを出してきたらどうしよう。また、相手が素直にグーを出すとしても、やっぱり自分はグーよりパーを出したほうが得ではないか!?・・・と相手も考えるだろう。さあ、困ったな、どうしよう。

囚人のジレンマ・解決編

さて最善策はですが、考えてもすぐには答えは出ないと思います。政治学者のロバート・アクセルロッド博士が、これについて大規模なシミュレーションを行ったのでその結果を見ていきましょう。これは、全国から戦略プログラムを募集し、コンピューター上で総当りでこのゲームを行うというもの。なお、この業界の言い方に合わせて「グー」のことを 協調(C):Cooperation、「パー」のことを 裏切り(D):Defection ということにします。

協調(C)裏切り(D)
協調(C)3\30\5
裏切り(D)5\01\1

最終的に最高得点を挙げたのは、全プログラム中、最もシンプルな tit-for-tat(オウム返し) という戦略でした。この tit-for-tat という戦術は、まず最初に「協調」し、次から前回の相手の戦略を真似していくというもの。相手が「裏切」ったら、次はこちらも裏切り、相手が「協調」したら次はこちらも協調する。例えば、デタラメに出すという 「ランダム戦略」 と 「tit-for-tat」 が試合をすると、こうなります。

RandomC D C C D C D D ・・・
Tit-for-tatC C D C C D C D ・・・

一見なんでもないようなこの戦略は、極めて合理的だとされています。アクセルロッド博士によると、成功した理由は4つだとか。

1.自分からは逃げない(裏切らない)

相手も似たような戦略の場合、自分から裏切ると裏切り同士がずっと続いてしまう。4つの中でも特に重要な要素。

2.挑発できる

相手が裏切ったらすぐにこちらも裏切る。そうすることで、相手の次の行動を牽制できる。

3.寛容である

相手が「協調同士の方が得」だと思い直したとき、すぐにその状態に持っていける。

4.単純である

相手が賢ければすぐに最善の選択肢、すなわち協調することが得だという事を見出せる。

なんとなくでも、このお話わかってもらえましたか? これで、ようやくタイトルに繋がります。

生命が生き残るためにとった戦略

ようやく、本題です。今までしてきた話は 生物の進化にも当てはまる と言うことができます。生物は単体で生きているわけではありません。他の生物と協力したり、相手を食ったりしながら生活をしています。

ここで「相手を食ってしまうように進化する」ことを「裏切り」、「相手と共存しやすいように進化する」ことを「協調」に当てはめます。相手を食ってしまうように進化とは、例えば牙や顎を発達させたりすることですね。要はティラノサウルスみたいになるってことです。相手と共存しやすいように進化とは…植物、特に花がいい例ですね。昆虫たちに蜜を与え、花粉を運んでもらうことで次の世代につなげます。

さて、生物において「裏切り続けた」種がどうなったか。

ある生物は、とにかく相手を食ってやる!と言って堅牢な体、そして牙や顎を発達させました(恐竜に進化)。 自分が相手を食うように進化すれば、相手は「食われてたまるか!」というように進化をします。ティラノサウルス以外にも、強力な牙や鱗を持つ恐竜が増えました(多種類の恐竜の誕生)。 食われるだけ立場だった「裸子植物」は、より堅い葉をつけることにより、簡単に食べられなくなりました(被子植物へ進化)。 これは「裏切り同士が続いている」状態に他ありません。

一方、共存関係を築くことができた種は・・・

植物は 恐竜には対抗して裏切る 一方で、昆虫たちに目立つよう、鮮やかな花を咲かせました(被子植物へ進化)。 また小動物に対しておいしい実をつけることで、その動物の食料としてあげる代わり、遠くまで種を運んでもらえます。