パソコン自作部屋


NVIDIA VS ATI(後編)

この文章はNVIDIA VS ATI(前編)の続きです。


これまでのあらすじ

復活のRadeon

その頃、Radeon陣営も何もしなかったわけではない。HD2000の改良版として、比較的扱いやすいHD3000シリーズをリリースしていた。超爆熱だったHD2900XTの面影はなく、消費電力は低めで性能もそこそこという、よく見ると良品と言って差し支えない製品に仕上がっていた。しかし、それ以上に絶好調だったGeforce 8000、9000シリーズには遠く及ばず、小売の店にまで「Radeon?なんでしたっけそれ(笑)」と煽られる始末で、全く評価されなかった。しかし、注目されないままATIは密かに非常に思い切った方向転換を行っていた。それは「ハイエンドは譲ります、我々はミドルレンジ以下を作ります」というものだ。従来、まずはハイエンド製品を全力で作り、ミドル以下の製品はハイエンドを適当に削ってリリースするというやり方だった。これはハイエンド対決はレビューページなどで取り上げられ、勝ったほうが「Geforce/Radeonの方が高性能」という、一種のレッテルが貼られることによる。ハイエンド製品は宣伝として非常に有効なのだ。しかし、実際に6万以上のハイエンドカードを買う人はほとんどいない。よく売れるのは1−2万程度のミドルレンジ製品である。ハイエンドありきで設計する場合ミドル以下の製品は作りが甘くなるため、最初からミドルレンジに最適化した製品をつくろう、というのがATIの戦略だった。

向かうところ敵なしだったGeforceに影がさすのはGT200コア、すなわちGeforce GTX280をリリースした頃である。このコアはCPU/GPU戦争でも書いたような理由で、汎用計算(CUDA)に重きをおいた製品になっている。グラフィック性能も当然上がってはいるものの、手を広げた代償としてチップのダイサイズが巨大化し、生産コストが上昇すると共に消費電力もかなり高いという、メーカーとしても消費者としても扱いにくい製品であった。とはいえ従来の製品に比べると圧倒的に高い性能を誇っていたため、特に問題はないかのように見えた。

問題が表面化するのはRadeon HD4000シリーズの登場による。ATIの方針転換が功を成した言っていいだろう。アッパーミドルに位置するHD4870,HD4850が思いの外好調で、性能自体はGTX280に及ばないものの、一つ下のGTX260には肉薄した。その影響を受け、最終的にはGTX260の値段が半額近くにまで暴落するという事件が起こった。また、エントリーミドルのHD4670も優れた製品で、そこそこの性能とかなり省エネな設計、そしてコストパフォーマンスにより人気を博した。

NVIDIA Rename Technology

ここに来て、NVIDIAの行動がおかしくなる。まずGTX200系がリリースされた後に9800GTというカードがリリースされた。8000系が出た後も7900GSなどが根強く残ったことを考えると、ありえない話ではない。しかし、この9800GTというのは8800GTそのものであり、単に名前を変えて出した、通称リネーム製品だった。旧製品は生産ラインが安定して歩留まりも良いため、ミドル以下は新設計ではなく旧製品で用意しようとしたのだろう。続けてNVIDIAは200系ミドルレンジ・GTS250をリリースするが、これも9800GTX+(G92コア)のリネームという体たらくだった。その後、9800GTはさらにGTS240と名前を変える。2回目のリネームである。逆に9600GSO、GTX260といった製品は同じ名前のまま途中で別製品に入れ替えるということも行なっており、いよいよ製品名と中身が混乱する事態になった。今にして思うと8800GTSが受け入れられ、味をしめたのが問題だったのかもしれない。

Radeonはコンパクトな改良を繰り返した。大きな改良ではないが、コツコツと小さな改良を短い周期で行い新製品をリリースした。新製品がリリースされるとそれだけで話題として取り上げられ、非常に勢いがあるように感じられる。一方NVIDIAはビデオカードを制すだけでなく、Intel(CPU)からの挑戦も受けなければならなかった。そのためにはCUDAが必要であり、大規模な構造の変更を必要としていた。そういったことは短期間で出来るものではない。必然的に、NVIDIAは大改良を長い周期で行うこととなる。そのため次世代GPUの開発は遅れに遅れた。事実、次世代GPUはRadeonが先行し、Geforceの新型リリースはそれから半年も要した。その間、話題性をRadeonに持って行かれるのが面白くなかったのだろう。しかし新製品を持たないNVIDIAができることと言えばGeforceのリネームである。先ほど挙げたものの他にも数多くのリネーム品が生み出された。中でも最凶なのが「GT330」という製品で、これはそもそも最初から仕様が決まっていないというトンデモだった。同じGT330でもクロックやコア数がメーカーによりバラバラであり、ここまでくると製品名が全く意味を持たなくなる。この際、型番を捨てて単に「Geforce」でいいのではないか。ちなみにこの300番台というのはG92コア、つまり8800GTを起源とするものであるが、次世代Geforce「Fermi」が本来名乗るべき型番だった。しかしリネームのせいでGT300系までG92コアが侵食したため、Fermiが400番台にずれ込んだという逸話付きだ。

なお、度重なるリネームからこれを NVIDIA Rename Technology と呼ぶ人まで現れた。リネームすることで新製品を開発する新技術ということらしい。余談ではあるが、NVIDIAがイベントで見せた「Fermi」のサンプルだと言って持ってきたカードが、実は従来のカードを物理的に切断ものだったという事件もある。これにより「ぶったぎっても動くNVIDIAの驚異的な技術に違いない」という皮肉まで生まれた。とにかく当時のNVIDIAは相当にぐだぐだだった。

「Fermi」ことGeforce GTX480登場

2010年3月末、ようやく「Fermi」と呼ばれていた新製品、Geforce GTX480がリリースされる。待望のカードであり最強の座を奪還した製品ではあった。しかしながら、Radeonとは真逆のハイエンド拡張路線を選んだ反動により、消費電力が実測で300Wを超えるモンスターでもあった。HD2900XTが200W越えで大騒ぎしたのがなんだったのかというほど、狂った消費電力である。いよいよクッキングヒーターとしてその発熱を再利用しなければやってられない。しかし、ここからがNVIDIAのすごいところ。設計を見なおし、かなり消費電力を抑えたミドルレンジGTX460をリリースしたかと思うと、再びハイエンドに手をつけ新たにGTX580をリリースする。GTX480のリリースからわずか半年である。GTX580は480に比べると消費電力はややダウン、性能数十%アップというなかなかのものであり、今度こそ最高のカードと言えるものであった。

逆にRadeonはというと、再び「最強」に憧れたのか、Radeon HD6970という「ハイエンド」製品をリリースする。しかしこれは、性能ではGTX580に遠く及ばずGTX570といい勝負、そして取り柄だった省エネが嘘のように超爆熱といいとこなしの製品で、久々のRadeonの失敗作である。アッパーミドルの製品ではまだ押し気味のRadeonだったが、ミドルレンジにて、製品のリネームが決定する。NVIDIAの十八番だったリネームだが、どうやら劣勢になるとどちらも行うらしい。NVIDIAのリネーム、NVIDIA Rename Technologyに対し、今度はARTの誕生である。リネームなどというものは言ってしまえば消費者を騙そうとしているに過ぎず、リネーム製品は不買運動を起こすぐらいの必要はあるかもしれない。