一般にオルバースのパラドクスと呼ばれているものです。
なぜ夜空は暗いのか? 当然のこと・・・? そう、確かに夜側に太陽はない。そのため夜空は真っ暗である。しかし考えても見よう。この宇宙には太陽より遥かに明るい星が無数にある。それらの光は常に地球に降り注いでいる。それでも夜空が暗いのはどうしてだろう?
では実際に、夜空の星から地球に降り注ぐ光の量を計算しよう。ここで、強力な仮定をいくつかおく。
(この枠内は読み飛ばしても問題ありません)
恒星が単位時間あたりに放出するエネルギー S とする。恒星の密度をρとして、空間に一様に分布しているとする。このとき、距離 r 離れた場所での光の強度 I は
距離 r から r+dr の間にある恒星の数 dn は
距離 r から r+dr の間にある恒星から届く光の強度は
r を 0 から無限遠まで積分して、最終的に地球に届く全恒星からの光の強度を計算すると
従って、地球に届く光の総量は無限大となる。
上記の証明を視覚的に説明すると、以下のようになります。
真ん中の小さいのが地球だとして・・・黄色の球面上にある星から届く光と、オレンジ色の球面上にある星から届く光の量は一緒ですよ、ということを式で証明したわけです。で、宇宙が無限大に広がってるなら・・・? 無限の球面の光を足していくことになるので届く光も無限になる、という話です。
夜空が明るいことが証明されたわけですが、しかし、見上げてみれば分かるとおり、夜空は真っ暗。これをオルバースのパラドクスと呼ぶ。現実と違う結果が得られた以上、「何か」が間違っているのは確かである。
では何が間違って・・・・と、ここまで書いて少し後悔。難しすぎてもはや全然「雑話」じゃないことに気づいた。しかしここまで書いたからには最後まで考察しよう。
何か矛盾が生じたならば、仮定を疑うのが当然のこと。しかし、今回は仮定が多いのです。あってもなくても結果が変わらないものもあります。どれが 「致命的に」 間違っているのかを、指摘しなければなりません
宇宙は人知が及ばないほどの広さですが 極めて広い=無限 と仮定していいのかどうか。
「地球から近い領域ほど星が少ない」などということがない限り、答えが変わったりはしないと考えられます。「地球は特別な場所にいるわけではない」妥当な仮定だと思われます。
一見、無茶苦茶な仮定です。しかし、「黒体輻射」という概念を使うと近似的に成立する、というロジックらしいです。物質は 電磁波(光)を放出します。そして温度が高いほど放出するエネルギーが高くなります。次の4の仮定を使いますが、無限の時間を考えれば吸った光と同等の光を放出し、エネルギー収支は0になります
例えば宇宙が始まって150億年だとすると、150億光年より遠い場所にある光は届きません。「無限遠方にある星の光も届く」という仮定です。
整理するはずが、さらにややっこしくしてしまった・・・。ものすごい大雑把にまとめると
2は特に問題ないと思います。地球が特別な場所にあると考えるほうが不自然ですから。
3はちょっと微妙です。「黒体輻射」による光の放射は非常にゆっくりです。普通の時間スケールで考えたら正しくありません。しかし、4の無限の時間を仮定して初めて妥当だと言えます。現在の宇宙の年齢は大雑把に150億年。「黒体輻射」の時間スケールから見て無限と仮定してよいか、また別問題となります。とりあえず保留で。
1の仮定。どう思いますか? 数百億光年という広さを、無限と仮定するのが妥当かどうか・・・
したがって、宇宙は無限ではなく、有限である
確かにそうなら、パラドクスは崩れます。こう結論してしまってよいのでしょうか?「宇宙は無限」という仮定は重要な要素ではあります。しかし、もうひとつ大きな仮定があるのを忘れてはなりません。
4の仮定「宇宙に始まりはない」。この中には、極めて大きな仮定が含まれています。言い換えると「現在の宇宙は、無限の時間を経過している」ということなのです。
ではもし 宇宙が無限ではなく有限で 2.3.4. のみを仮定したら、光の量も有限になるのか?
ここで思考実験です。宇宙が非常に小さく、地球と恒星1個しかなかった場合を考えます。そして宇宙が「左に行くと右から出てきて、上から行くと下から出てくる世界」 だと考えてください(周期境界条件と言います)。地球の体積は宇宙の大きさから見たら0に等しいほど小さいとします
上の白い丸が恒星、下の青い点が地球です。さて、どういう経路で光が届くと思いますか?素直に考えると次のようになりますね。
白い線が光の経路だと思ってください。とりあえず、これが誰でもわかる解答ですが、しかし これだけじゃありません。何しろ「右から行ったら左から出てくる」世界です。こういうのもアリです。
それがありなら・・・と、いろいろ考えられます。例えば
これだっていいわけですね。さらには・・・
こ~んなのも、ありです。組み合わせはまさに「無限通り」あります
では経路が違う光を地球から見た場合、どう見えると思いますか? そう、あたかも違う場所にある恒星に見えるはずです。最短で来た光は、「すぐ近くにある星」のように見え、遠回りした光は、「遠くにある星」だと思うわけです。そして無限通りの経路がある、ということは 『無限の光が降り注ぐ状態』 にあるのです。しかし、恒星が発している光は有限です。
なぜ無限の光が存在するのか・・・
見ている光は同じ時間に放出したものではありません。最短ルートの光は、ほんの少し前のものですが、遠回りした光はかなり昔に発した光だと思われます。そして・・・「無限に遠回りした」光は「無限時間前に発せされた」光なのです。それらを一気に受け取ることで無限の光になるわけですね
こっちに見える光は最近発した光
そっちに見える光はちょっと前の光
あっちに見える光はかなり前の光
むこうに見える光はすっごく前の光・・・
無限の光の正体、わかりましたか? ここに隠された第5の仮定の存在に気づきます。
無限のエネルギーが降り注ぐには 無限のエネルギー源が必要です。4で「無限の時間が経過した」と仮定しました。問題は「その間の無限時間、恒星は光を発し続けた」として計算してしまったことが、パラドクスを生んでいたと考えられます。